旧家の再生  2015.10

 

 旧街道沿いに建つ、築110年、母屋が総2階の入母屋づくりの建物の再生工事を行った。延べ約100坪、珍しい総2階のたたずまいは、歴史のある集落の中でもランドマーク的な存在であった一方、大きな屋根で壁の少ない2階屋は、先の3.11の震災によって損傷を受けることにつながってしまった。この建物を次代に継承していくにあたっては、2階部分の高さを抑え、かつ屋根裏風の空間利用とすることで、建物全体を必要充分な空間に減築し、現代や将来における使い勝手の改善や耐震性を高める方向が目指された。ランドマークとしてではなく周辺建物と調和のしやすいたたずまいの方が、維持管理を含めた建物の継承にとっては現実的といえるのかもしれない。

 

 ここでは、建物を持ちあげて鉄筋コンクリートの基礎を打ち、なるべく古材を再利用しそこに新しい材や壁を加えることで、現行の構造法規に適合させながらも、いたずらに接合金物や木質建材などに頼るのではなく、伝統的な技術や要素を用い、既存建物の構造特性を生かす方法を採った。造作においても、良質のムク材を伝統的な方法で扱うことで、木の反りやスキマを防ぐなどの配慮をしている。雨の日の通風や明かりとり、煙出し等の機能が期待できる屋根つきのぬれ縁(中庭)は、物干しや半屋外での食事もできる中庭のような場所であり、また上部が吹き抜けで梁組のあらわなLDKは、ストーブの暖気を2階に届ける天井の高いおおらかな空間、対して高さを抑えた2階は屋根裏部屋のような雰囲気をもつ予備・収納のための場所である。全体には、いくつかの縁側的な空間と吹き抜けや引き戸によって、各スペースや部屋間はゆるやかに仕切られ、また通風や採光の調節が図られる。古民家の持つ融通性を引き出すべく計画した結果である。